「情念」とは、「感情が刺激されて生ずる想念。抑えがたい愛憎の感情。」(出典:デジタル大辞泉(小学館))
愛しさも悔しさも憎しみも悲しみも…様々な感情が咲き乱れるように、激情にかられる女たちの歌を集めました。
山田風太郎氏の「黒衣の聖母」を元にした「黒衣の天女」。戦後の混沌とした状況下で生き抜くために必死な人々。特に母親は我が子のためには鬼にも悪魔にもなったことでしょう。女性のもつ天使性と悪魔性を描いた作品とのことですが、未読なため読んでみたいと思います。(あらすじだけ読んだらめちゃくちゃ面白そうで私好みだった…!どんでん返しとか後味悪い系大好きです。笑)陰鬱な歌詞がどういう意味を持っているのか興味深いです。ものすごくキャッチーというわけではないのに耳に残るメロディーや、完璧に交わり圧倒されるツインボーカルのロングトーン&ビブラートが聴いていて気持ちいい!
人と人ではないものとの報われない恋。「月花」の恋はたとえ種が違おうと、とても澄んでいて清らか。一見激しさはないように思えますが、よく歌詞を見てお二人の歌を聴くと互いを同じように強く思っているのが伝わります。
可憐で清純な乙女のような黒猫さんの透き通った歌声と、慈しみ大切に思う気持ちが溢れている瞬火さんの歌声に切なくなる…サビはどちらも主旋律であるかのような美しいメロディーで心奪われます。混じり気のない情熱的な恋心はこの二つの魂を確かに繋いでいる…来世では結ばれることを祈りたくなります。
大切に思うがあまり、勝手に人魚の肉を食べさせて不老不死にしてしまった夫と、永遠に終わることのない命に嘆き悲しみに暮れる妻。愛する人を亡くしたくないと思う気持ちはわかります。しかし、相手に永遠の命を与えてやると思うのはあまりにも傲慢、あまりにも自己中心的。安らぐのは自分、救われるのは自分なのですから。でも妻を愛する気持ちに嘘はないのでしょう。瞬火さんの悲痛な、しかし官能的なほどの色気をまとう歌声が届かぬ愛を叫んでいるように感じられます。望んでもいないのに永久に生きながらえなければいけなくなった妻、諦めと怒り、恨みつらみがこもった歌声が痛々しい…でも彼女も間違いなく彼を愛しているのです。待ち続ける彼女にいつか奇跡が起こり、この2人にも幸せな来世がきますように…。
あぶり出しのような歌詞の仕掛けはもはや神業、
瞬火さんは言葉を操る天才としか言いようがありません。ただただ脱帽。凄すぎます。
『鬼子母神』は私が本格的に陰陽座にどっぷりハマるきっかけとなった作品なので思い入れも深いです。「鬼子母人」のスリリングなギター、不気味で奇っ怪な曲調全てがカッコイイ!妖艶で気高く、悪どくてゲス…そんな禎さまの狂気を見事に表現している黒猫さんの憑依っぷりが素晴らしいです。母は時として大事な子のためになら他人を駒にしか思わないような外道の鬼にもなる…!!
名作「甲賀忍法帖」のなかで個人的に一番好きなキャラの“陽炎”ちゃん。生まれは申し分なく匂い立つ色気の絶世の美女。それなのに愛する人の前では己が凶器と化してしまう…なんと報われない…。約定が破られてもなお、愛しい人は敵将 朧を討つ覚悟を持ちきれてない様子を近くでみるたびにどんなに辛く生き地獄を味わったことでしょう。やるせなく自分を恨み、それならばいっそあの人と共に…そんな思いが燃えるようにたちこめています。「覇道」ツアーで実際に聴くことができて本当に嬉しかったです✨
「道成寺蛇ノ獄」は安珍・清姫伝説を元にした10分超えの大作ですが、これこそまさに女の激情といえる名曲だと思います。最初はしっとりと美しい黒猫さんの歌声に魅せられますが、だんだん暗雲がたちこめてきて…瞬火さんの歌う安珍の悪いやつっぷりが半端ない!思い切り騙します、裏切ります!嘆き縋る清姫も、そのうち裏切られたことへの怒りによってついに愛が憎しみに変わる、その変遷を黒猫さんがまるで清姫の姿が浮かんでくるかのようにさすがの表現力で歌いあげています。「今更 呼ばないで」のあとの「きよひめぇぇーー」がいいですね。しかし大蛇と化してしまった清姫の心はもう戻らずに愛しき人を殺してしまう…激しく愛した分だけ憎しみも激しいのです。物語を映画や演劇で見たような満足感、陰陽座の長尺曲ならではの醍醐味です。
私の一番好きなバラードである「絡新婦」。初めて雷舞で聴いたとき、思わず涙が零れていました。全編に渡って感情が揺さぶられますが、とくに「差し伸ぶ 歩脚を 断ち 嗤うか」というところで心の芯を握りつぶされるような、身体を引き裂かれるような、魂ごと絡新婦の気持ちとシンクロしてしまう感覚に陥ります。黒猫さんの表現力というかもはや憑依力は本当に凄まじい…!絡新婦の無念、悔しさ、それでも忘れられない愛した気持ちが、阿部さんの音色と相まって強く胸をうつ珠玉のバラードだと思います。
ラストを飾るのは「組曲「鬼子母神」~紅涙」。女の情念というテーマには「鬼哭」よりもこちらのほうが合っていると思って選びました。「産衣」のころとは別人のようです。静は九鬼殿を男性として愛していたのかなぁ…少なくともこの先、彼とはなと共に生き延びたいという強い願いがあったことと思います。また原作「絶界の鬼子母神」を読み返したくなりました。ちなみに『絶界演舞』の世界があまりにも凄すぎて、原作にも感情移入しすぎて、一時期『鬼子母神』を聴くのに相当のメンタルの安定が必要でした(笑)
自身が女であるからこそ共感し共鳴する彼女たちの激情。
瞬火さんは男性なのに、女性の悲喜こもごも数多の感情をこんなにも情熱的にリアルに表現できて本当に驚くばかりです!
瞬火さんの心にはきっと麗しき乙女が住んでいるに違いない✨笑
秋の夜長に切なくなれる、こんなプレイリストはいかがでしょうか?
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