中学時代は暗黒の時代…… 運動音痴、細身で色白 最弱のステータス そんな俺はいつも一人 ちがさき、サッカーやろうぜ! ちがさき、バスケしようぜ! ちがさき、かけっこしようぜ! 中学を卒業した俺は 高校デビューを試みた! 姉のアドバイスに従い 薄幸の病弱美少年系キャラに ジョブチェンジ! こうして始まった高校生活 俺の地位は一変した 作ったキャラを演じるのは わずらわしいが 息をひそめて 生きていたころに比べれば ずっとずっと楽だった ういっす、みんな何してんの? つーかそいつ誰だっけ? クラスの中心で騒いでいる リア充ウェイ系 ト・ノ・オ・カ! 俺とは真逆 苦手なタイプだ こいつとは絶対に仲良くなれない 待てよ。なんか落ちたぞ オタク丸出しのキーホルダー オタクだとばれたら最後 築き上げたキャラが崩れてしまう! えっと……それ俺のじゃ…… これ、えんたくナイトくんじゃん! しかも、え? マジ? IVの初回限定版特典のやつだ!? すげえ! マジかよ! 速攻売り切れたのによく買えたな!? つーか、茅ヶ崎って ゲーム好きなのかよ? 意外! 外岡は『ナイラン』シリーズの 大ファンで、ゲーム全般 やり込んでるガチオタだった。 友達にバカにされたくなくて 隠していたのだという。 なあ、『ナイラン』シリーズで どれが好き? 俺はやっぱりIV…… わかる いや、でもやっぱりVII…… それな! いや、でもやっぱり…… わかる! 仲良くなるはずなんてなかったのに 別世界の住人だと思っていた アイツはこっち側の住人だった 『ナイラン』というゲームが 俺達をつなげてくれた 互いの家に通ってゲームをしたり 進み具合を競ったり感想を話したり 初めて誰かと共有した ゲームの楽しさ 放課後の友達は 何でも話せる友達 初めてできた 親友と呼べる存在 外岡と仲良くなり始めてから、 自然と俺も他のクラスメイトと 接する機会が多くなった。 そんな時、偶然、 クラスメイトの一人と 『ナイラン』の話題になった。 色々話し込んでるところに、 ちょうど外岡が来たんだ。 トノ、 ナイランVIIの地下神殿でとれる レアアイテムってなんだっけ? は? 何言ってんの? オタバレするリスクも考えずに 話しかけたのは軽率だったけど 大したことないだろう 俺達は親友 明日はまたいつも通り話せる そう思っていた…… 知ってる? 茅ヶ崎って実は ガチのオタクだから。 えーマジ? 見えねー。 『ナイラン』がつなげた二人の絆 マジマジ。病弱ってのもウソで、 極度の運動音痴だから 体育サボってるだけ。 引くわー。 そりゃ無いだろ。 なんでも話せる 俺達は親友 サッカーのPKでも空ぶるんだって。 ウケるだろ? ウケる。 幻滅。 だけど二人の友情は 音をたてて崩れ去った チガ……! 待てよ、チガ! 追いかけてきた外岡は、 泣いてるような 怒ってるような顔をして 見たことないくらい うろたえていた。 ……お前も俺の趣味、 クラスの奴らにバラせば。 アイツを見ていたら 怒りとか悲しみとか もうどうでもよくなった 確かなことは一つだけ 初めての友達は…… 放課後の友達は…… もうどこにもいない