LANY(レイニー)のメンバーは、ポール ・クライン(Paul Klein)、レス・プリースト(Les Priest)、そしてジェイク・ゴス(Jake Goss)の3人だ。
LAを拠点とするこの3人組が結成されたのは、2014年のこと。その時はただ、一緒に2曲だけ取り組んで、デモを作り、その過程を楽しむのが目的だった。既に西海岸で暮らしていたヴォーカルのポールは当時、寄せ集めのバンドをその都度率いて、本数は少ないながらもライヴ活動を行っていた。しかし2013年末を迎える頃には、このままではいけないと思うようになっていたと、ポールは語る。レスとジェイクが関わるようになったのは、そんな状況の時であった。ポールが思い付いたのは、(ナッシュヴィルの)カレッジ時代の友人を訪ね、彼らの協力を仰ごうというアイディアだ。彼らが踏み出すことになった一歩が、やがてこの上なく重要なものになるとは、その時は誰も知る由もなかった。4日間かけて、彼らは2曲をレコーディング。その2曲は、彼らの言葉を借りれば「一瞬の出来事に思えるほど、あっという間に」LANYの結成へと繋がった。それから間もなく、バンドはポリドール・レコードと契約。曲をインターネットにアップしてから6日後には、複数の大手レーベルから問い合わせやオファーのメールが舞い込むようになっていたのだった。「いつもまず最初の質問は、『他にどういう曲があるの? もっと聞かせてくれないかな』だったんだよね」とポール。「で、僕らはすぐに曲作りに取り掛かり、「ILYSB」を書いて、「これです」って言ったんだ」。
その「ILYSB」は、レコード会社のスカウト連の頭越しに、LANYがファンと直接繋がるきっかけとなった。平たく言えば、ネット上で爆発的な人気を得たということ。この曲を聴けば、理由は明らかだろう。「一息つこうよ」という、このバンドの哲学が要約されている「ILYSB」は、夏のそよ風のように聴き手をふわりと宙に漂わせ、また歌詞に込められた切なる思いは、独特のミニマリストなサウンドスケープから生み出される高揚感と好対比を成している。それと似た不思議な魔法が繰り返し起きているのが、2015年の間にLANYがネット上で発表した曲、つまり一連のシングルや、「I Loved You」「Make Out」といったEPの収録曲だ。また「BRB」「Made in Hollywood」「Bad, Bad, Bad」「Kiss」や、最初期の曲「Walk Away」「Hot Lights」 といった曲を聴けば、このバンドの結成時の状況が蘇ってくる。自分達は一緒に音楽をやるために生まれてきたんだと、声を大にして言わずとも、彼らが自ずと気づいたことが、これらの曲から伝わってくるのだ。
信じ難いことではあるが、その魔法はつい最近まで、寝室が1つしかないLAのアパートで生み出されていた。友人同士3人が同居するその部屋は、猫の額ほどもない狭苦しさで、レコーディング機材を設置する余地などもちろんなかった。だがそれは、LANYの姿勢とも一致している。つまり音楽が最優先で、バンドの生活環境は後回しでも良いということだ。LAに拠点を移したことが極めて重要な一歩だったというのは、3人全員が認めるところだ。故郷を捨てたわけではなく、安全圏から脱出することが自分達にとっては大事だったのだと、彼らは強調する。
彼らは斜に構えたうるさ型タイプでもなければ、「学校なんてダサくて行ってられない」というタイプの夢想家でもない。むしろその全く逆で、カレッジで音楽を学び、全員が複数の楽器の演奏を習得したことを誇りにしている。志を同じくし、自分達が思い描く通り、音楽の夢を追うためならば、1つの部屋で共同生活を送ることも厭わない。「このバンドは、そもそも3人が友達同士だってところから始まったんだ」とジェイク。「でも同時に、僕らはお互いのファンでもあったんだよ。僕の場合、レスはすごい奴だとずっと思っていたし、ポールのことは今まで出会った中で一番カッコいい奴だと思ってた。だから、「よし、どうやら3人ともお互いのことが大好きらしいな! それじゃ一緒に何かやろうぜ」って感じだったんだよ」。
そして彼らはそれを実行した。LANYが、その“何か”だったのだ。聴き手のハートを的にして矢を放つ音楽を作るということ。迸るシンセに簡素なパーカッション、1980年代の極上FMポップや1990年代初頭のR&B、そしてニューウェイヴ 系エレクトロニカからの影響を感じさせる、美しい曲を書くということ。聴き手の脳裏に根を下ろして心を捉える、メロディと歌詞を融合させるということ。狭苦しい部屋で、古いノート PCを使ってレコーディングするということ。言葉では説明できないような、圧倒的かつ美しい曲を創り出すということ。そう、そいつは良い考えだ。—— Dan Cairns
…もっと見る