カートに乗って坂を下り、ヴィラに着いた。
それまで、8時間と数十分かけて空港を出たのだけど僕らは少し興奮していた。それから迎えの車で雑然とした街中の渋滞をドライバーは気持ちだけ、本当に気持ちだけ迂回しつつ、僕らは、夜の灯りに照らされた食堂や英語の頭文字の並んだ看板、行き交う人々とバイクの洪水をのんびり眺めながら時計を見ると21時は過ぎていたと思う。
だんだん、街の灯りが遠くなり、走り抜ける暗い闇の中に時々現れる、ホテルの名前が浮かび上がる照明。目的の場所が近いことが分かる。それまで2人でとりとめの無い話しをしていたのが、お互い目と目が合うようになってくる。
到着して、闇夜の中に水音の流れるレセプション。全ての照明が夜の黒から薄いオレンジへのグラデーションのようにレセプションを照らしていた。いろいろと儀式を終えて、先にヴィラに入る。
すぐ後に荷物が運び込まれて、君はポーターに置き場所を指差してゆく。僕は彼にチップを渡して、靴を履いたままベッドに横になった。そこから君がラゲッジを開けて、バスタブにお湯を入れ、服をハンガーに掛けたり下着を仕舞ったり、メイク道具を鏡の前にセットするのを見ている。
それが終わりかけようとする頃に、僕はルームサービスのメニューを見て、髪を結い上げる君の後ろ姿に声をかけ、電話をとって軽い夜食を頼み、ソファーに移って部屋の備え付けのビールを飲みつつ、君が浴びているシャワー音やバスタブの中から聞こえる歌声を聴く。
部屋のクーラーから逃れ、東屋に移り天井扇のゆるい風を浴び、プールの水の中に伸びる照明を見ていた。遠くには空港の灯りが並び、崖下の海は夜に隠れて静かに朝を待っているようだった。
気がつくと君が腰に手をあて、こちらを見ている。君はビールを先に飲んでいる僕の不調法を軽い笑みで攻めながら、自分の荷物を解くよう後ろを指さした。僕は笑って君を軽く抱き締めキスをして、彼女の言う通りに自分の仕事を片付けて東屋に戻った。
ソファーの上に両足を乗せて寛いでいる君の前に座る。二人で両腕を天に伸ばし、空港からここまで息をしていなかったように、大きく息を吸い込み吐いた。その時を待っていたかのようにルームサービスが届き、僕らは、星空の下、セッティングされたテーブルに移り、テーブル下でお互いの足を絡めながら、明日の予定を軽く話していた。
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