宇宙の声

大人になって子供の頃から憧れだった宇宙飛行士になったんだ…。宇宙飛行士は足場を作る鳶職のようだよ坊や。ある夜ふと足を止め、手を休めて巨大な水滴に浮かぶ世界を見た。宇宙には音は無いんだ坊主や。すごい速さで宇宙船は地球を回ってる。だけど、宇宙服の中の心は目の前の世界に一瞬、くぎ付けになった。世界の音が聴こえてきた。夜景、夜の空気の匂い。朝、都市に溢れる車やバス、電車の地面を引きずる音、電話や何気ない会話、お母さんがお前を起こそうとする声。お前のベッドの柔らかさ。その一瞬の中でたくさんのものを見て、それをその場所に一瞬で置き去りにして別の場所にすっ飛んで行ったんだ。それが、宇宙飛行士ってもんだよ。仕事としちゃあひと味違うだろう。坊や。