俺は独り。でも頭の中には俺が知る限り最低4人の人格がおり、それぞれがパートを持ち音楽で繋がっている。誰かが音を出し鳴らし始めれば、それに合わせてジャムが始まり、曲が出来るまでジャムは止まない。だから人格というより奴らは4つの楽器だ。一つのアイディアからインスピレーションが繋がり仕上がりが見えると、アレンジが広がり新しい人格が現れ、ホーンやピアノのパートが加わわったりする。その過程で俺の人格はすっ飛ばされ、奴らは勝手に俺を乗っ取って、あーだこーだとやりだす。その間、俺はエコーの渦の中に沈められて奴らの音を聴かされる。そうすると俺は部屋から出られず、生活だけでなく、命まで削られることになる。そうならないためにも俺はプロデューサーかマネージャー然として奴らを仕切らないきゃならない。アルバムをでっち上げ、締め切りを押し付け、尻を叩き、おだてて、こき下ろす。危ない橋を渡るようなもので音楽観の相違や人間関係の相性で人格(バンド)崩壊を起こしかねない。時には冷酷に首切りを行い、何とかアルバムを仕上げなきゃならない。アルバムが出来たら、今度はツアーが始まる。その間は俺も移動する。大阪、名古屋、博多、横浜、埼玉、と流々転々とし、嘘のプレスインタビューをこさえたりする。俺はどこにいるのか、誰と話しているのか分からなくなる。だけと、頭の中で鳴りだしたら始めなきゃならない。俺のロードを走り出す。転がるように加速する。奴らの先を常に走る。音楽だけが俺を生かしている。死が奴らを永遠に別つまで。
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