騒ぐ砂の海。眠る空の果実。 夜に消えた蜃気楼。絹の轍を征く。 そこに現れた、白い異国の美女。 "逃げるならこっちだよ" アルフ・ライラ・ワ・ライラ。 君に巡逢[であ] えた夜のことは、 まるで魔法みたい。 恋に堕ちた。 それだけでもう僕は、 どんな呪文さえ効かない。 千夜に一夜の夢をみたいと、 彼女はひとり逃亡[にげだ]した。 じゃあ、 知らない世界を観に行こうか。 "僕を信じて" 見慣れない服、気になる靴に、 彼女は少し微笑んだ。 君の自由[ねがい] ならば叶えてあげる。 リ・ドニア・ファウク。 このまま、ふたりきりで。 ……だけど現実は、 まるで囚われの身。 身分[うまれ] が違いすぎる。君は異国の令嬢。 権力[ちから] の無い者は、傍にさえいられない。 こんな僕じゃあダメだな。 アルフ・ライラ・ワ・ライラ。 ふと気がつけば午前0時。 これは誰の影? なぜか異国の帽子屋と兎が、 僕を禁忌[ハラム]へと手招く。 彼女の自由[ねがい] 叶えたいなら、 向かう先はただひとつ。 その指輪が権力[ちから] をくれるという。 "俺を信じろ" 危険な旅路。荒れ狂う砂塵。 命さえもわからない。 でも君のためなら何だっていいさ。 冷たい砂の上で孤独[ひとり]。 魔法の指輪が、僕の心を権力 [サルタン]の獣に変える。 僕の憤怒[すべて] さえも呑み込んで咲く 「アルカナの薔薇」。 「仮面の裏」 に隠した野望、 気付いていたはずなのに。 君の自由[ねがい] はもう叶えられない。 例え愛を失っても、 また僕を信じて。 ……君を愛してる。 そして僕は、ひとり恋をした。