「お控えなすって。 手前、姓は風間、名は銀二。 各々方、よろしくお頼み申します」 戦後の傷跡色濃く残り 裏切り渦巻く裏社会 仁義の二文字背中に背負い 命(タマ)張り生きる流れ者 「で、何があったんで?」 「親父が… どこぞの鉄砲玉に殺られた」 「親父さんが!?」 「なぁ風間。 俺はどうすればいい…。 このままじゃ龍田組は…」 「しっかりしなせぇ。 親分さんがいなくなった今、 龍田組を背負っていけるのは 若頭のあんたしかいねえ」 「いまだに坊ちゃん 扱いされる若頭に、 そんな器があるのかね」 「坊、器があるかないかじゃねえ。 やるかやらないかよ」 「すげえな… 一気に客を引きつけちまった」 「左京にぃ、 気合い入りまくりッス!」 「感心してんじゃねえ。 集中しろ!」 「上等、ぶちかましてやるよ!」 「流れ者なんぞを 信用しちゃあいけやせん」 「茂木ィ、客人に失礼だろ」 「テメエ 兄貴を侮辱してんじゃねえぞ」 「三下は黙ってろや! 坊、組のことは この茂木にお任せください」 「茂木さんよ。 親分さんには世話んなった。 事を荒だてたくはねえ。 が、人の舎弟足蹴にしておいて 黙ってすますつもりですかい?」 「よそ者に下げてやるほど、 俺の頭は安くねえんだよ」 「親父をやった 鉄砲玉さえ見つかれば、 どこの仕業かわかるんだがな」 「ネズミは意外と近くに 潜んでるかもしれやせんぜ」 銀二の兄貴とイチの舎弟児島様に ケンカ売るたぁ、命知らずだな! 「児島、坊を連れて逃げろ」 「けど!」 「こいつらの狙いは坊だ。 俺を誰だと思ってる。行け」 あっしらぁ所詮無頼の輩 だが仁義に背いちゃおしめえよ 命(タマ)までは取らねえが ちいと痛え目見てもらうぜ? 「てめえらの出自は見当ついてる。 けしかけたのは…茂木だな?」 「興誠会に吸収? 話が違ぇぞ! 謙坊を差し出せば俺を龍田組の 頭にするっつったろ!」 「ああ、あれな。思ったよりも 龍田組には肉が残ってねえって わかったからよ。 ウチで吸収してやろうと思ってな。 感謝しろよ。骨なんか しゃぶって喜ぶのはてめえみたいな 野犬くらいなもんだろ」 「んだとオラァ!」 「横田…裏切りやがったな」 「裏切り者はお前だろ? 龍田組はお前のおかげで終わりだ」 「悪役はまりすぎだろ。 そっちが地なんじゃねえの?」 「左京さんの主演舞台にケチつける わけにはいかないからな」 「んじゃ俺はあのおっさんが 霞むくらい暴れさせてもらうわ」 「ああ! そうしろ!」 「くそがあああ!」 面子の為なら息吐く如く 騙し裏切り悪党ども 恩より己の為に動くなら 仁義に悖(もと)るはぐれ者 「茂木が 裏切ってやがったとはな…」 「問題は茂木が どこの組と繋がってたか。 やつらもそれは口を割らなかった」 「兄貴! 大変です! 茂木が…!」 「おい! 茂木? 誰にやられた!?」 「…罰があたっちまった」 「組のモン呼べ。 茂木の手当てをしてやってくれ!」 「ヘイ」 「坊…俺を助けようってのか?」 「当たりめえだろ! てめえはウチの組員だろうが!」 「アンタ、 やっぱあの人の息子だな…」 「もういい、黙ってろ」 「親分をやったのは 興誠会の横田だ」 「横田?」 「なんでテメエは 坊に手を出した?」 「龍田謙を差し出せば組の名前は 残してやるってあいつの口車に 乗せられて…。坊をやってでも、 この組を守りたかった」 「茂木、茂木!」 「興誠会の横田。 人の心を利用するたあ 粋じゃねえな」 「風間、もういい。 もう終わりにしよう」 「坊、何言ってんだ!」 「親父がやられて茂木も…。 やっぱり俺は組長の器じゃねえ。 俺が横田に下りゃ組員達だけでも 面倒みてもらえんじゃねえのか」 「横田は親分さんを やった野郎だぞ?」 「情けねえって笑ってくれ。 なあ、風間」 「仁義を欠いちゃ 人の世は渡っていけねえ。 …拾ってもらったこの命、 仇にくれてやるくらいなら」 「ダメだ風間!」 「派手に散ってみせやしょう」 「風間!」 「今日は手加減できねえ。 命(タマ)が惜しくねえ奴だけ かかってきなせえ」 「そこまでだ。風間銀二」 「児島…!」 「健気だなあ。 てめえの応援に来たらしいぞ。 クソ弱え癖になあ」 「兄貴…兄貴、すいやせん…!」 「弟分を殺されたくなかったら 武器を捨てろ」 「外道が…任侠道にいながら、 サシで戦う気概もねえのかい」 「頭(ここ)で戦うのが、 これからのヤクザよ」 「うらああああ!!」 「児島!」 「これで人質の価値は なくなったなあ」 「てめえ」 「俺が兄貴の一番の舎弟、 児島恭太だ。なめんなよ…!」 「ふざけやがって。 野郎ども、こいつを殺せ…!」 「あっしの龍が毎晩鳴くんですよ。 てめえみてぇな外道を見ると、 食い殺してやりてえってな!」 「雄三さん…あんたにこんな風に、 殺陣を教わるなんてな。 ここがあの時眩しくて目をそらした 舞台の真ん中だ! 幸夫さん… この恩は一生かかっても返します。 あんたがくれたこの仲間達と、 舞台の上で!」 「ようやく力尽きやがったか、 風間銀二。やれ!」 「風間!」 「坊…」 「俺も貫きてえ。 あんたに教わった… 仁義ってやつを」 「どいつもこいつも、 なめやがってえ!!」 「横田のダンナ…。 仁義、通させていただきやした」 「てめえはなんで生きてんだよ 裏切り野郎」 「オメーに言われたくねえよ 切腹野郎」 「茂木、 その人はウチの組の恩人だ。 舐めた口聞くんじゃねえ」 「へい」 「謙さん、兄貴は!?」 「もう行っちまったよ」 「マジかよ! 追いかけねえと!」 「風間さんの行き先、 わかんのかよ」 「知らねえ! けど俺は決めてんだ。 地獄の果てまでついてくってな! 兄貴!」 「風間さん、 次はどこ行くんすかね」 「さあな。 あいつは流れ者…一つ所には いられねえ性分なのさ…」 「お控えなすって。 手前、姓は風間、名は銀二。 ご当家、三尺三寸借り受けまして、 稼業、仁義を発します!」 男は 無様 無様 無様な鉛の弾 一瞬の火花で燃えたぎる 不器用 愚か 愚か 愚かな 紅蓮の華 破れ散ることも恐れないで ただひたすら仁の道を進めよ ただひたすら仁の道を進むよ