鮪の刺身を食いたくなったと 人間みたいなことを女房が言った 言われてみるとついぼくも 人間めいて 鮪の刺身を夢みかけるのだが 死んでもよければ勝手に食えと ぼくは腹立ちまぎれに言ったのだ 女房はぷいと 横に向いてしまったのだが 亭主も女房もお互いに 鮪なのであって 地球の上はみんな 鮪なのだ 鮪は原爆を憎み 水爆にはまた脅かされて 腹立ちまぎれに 現代を生きているのだ ある日ぼくは食膳をのぞいて ビキニの灰をかぶっていると 女房に言うと 女房は箸を逆さに持ちかえると 焦げた鰯のその頭をこづいて 焦げた鰯のその頭をこづいて 火鉢の灰だとつぶやいたのだ 鮪の刺身を食いたくなったと 人間みたいなことを 旦那も言いはじめた