ああ俺には何か足りないと 何が足りぬやらこの俺には ああ 弱き人のその肩に やさしき言葉もかけられず ああ 人を思ううちが花よと わずかに己れをなぐさめた ああ ひとりいれば人を思い もてあます時は仕事を思い 道を歩めば人に出会い 町に出ずれば車に出会う ああ平和なるこの生活が なぜに我らを蝕(むしば)むのか ああ … ああ哀れ 時(とき)の力は 我が命をいつか食いつくし しかばねとなるまで しかばねになるまで 何が足りぬやら 我が命尽きる その日が来るまでに 時は我が血を吸い身を削り 生活手にす遑(いとま)も 無きがままに ひとりベンチに腰かけて 歩み行く人を眺めやった ああまじりあいたる 町の響(ひび)きを ひとり聞きながら眺めやった ああうち仰ぐ空のかなたに きらりと光る夕陽あり 流るるドブの表を きらりとさせたる夕陽あり 俺はこのため生きていた ドブの夕陽を見るために ドブの夕陽を見るために