霊犬信乃伝

歌詞

通りゃんせ 通りゃんせ 鳥居をくぐれば何処かな 見知らぬ神社の御祭に 迷い宵々 一人きり 囲め 囲め 猿の面した香具師の聲 鬼火提灯 屋台から 如何様 飴屋が手を招く 「甘いのやろうか 滅多にゃ喰えんぞ 今宵は馳走じゃ 贄たかどうだか 喰うてみよう こっちゃ来い……、来い！」 と、小僧を引き止める 狗の面したこの娘はだぁれ? 「坊 目え覚ませ よもつへぐいはしちゃならぬ その目に映った御祭は 化生の見せたるまやかしぞ 坊 早う逃げい わっちが村まで帰しちゃる 一心不乱に駆け抜くぞ 決してこの手は離すなよ」 通りゃんせ 通りゃんせ おとうも おっかあも 何処かな はぐれたまんまで帰っても 信乃しかおいを待っちょらん 「おとうもおっかあも むこうで見たぞ おんしを待っちょうぞ わしが会わしちゃる ついて来い こっちゃ来い……、来い！」 と、小僧を庇うように 狗の面した娘が出張る 「坊 確りせい 決して返事をしちゃならぬ おまいのおとうもおっかあも 疾うの昔に死んだろう 坊 早う逃げい 幽顕 隔てる階段を 一心不乱に駆け下るぞ 決してこの手は離すなよ」 「誰が招いた狗畜生 胙盗られて狒々が啼く そこのけ物の怪追っつくぞ ここは庭場じゃ逃がしゃせん あそうれ こっちゃ来い、来い……！」 と、匕首抜刀し 狗の面した娘が翻す 「坊 ここまでじゃ これより先は一人で行け 後ろに迫ったばけもんは わっちがここで食い止めよう 坊 早う逃げい 何が聞こえても振り向くな 一心不乱に生き抜くぞ この手を離してひた走れ」 通りゃんせ 通りゃんせ 鳥居をくぐればおいが村 神隠しの沙汰は止み 狗子信乃は何処かな