この坂を登りつめると ふるさとの街が見える 幼ない日の壊れやすい記憶を 指先でたどってみる 灯りの花が咲き 夜のとばりに浮かぶ窓 食器のふれる音 夕餉(ゆうげ)の祈り そこには悲しみさえ わかち合える人がいる 愛の器に この坂を登りつめると ふるさとの街が見える 色あせた時計台の針は 遠い日を回りつづける 年老いた鐘の音は静かに うなづき語りかけるよ あれから どこへ行き どんな世界を見て来たの 大人の目をして帰って来たね 私は 何も言えず コートに 顔を埋(う)めるだけ にじむ星空 この坂を登りつめると ふるさとの街が 見える