「さようなら。」 全てが砂に消えてしまった朝は、 やけに清々しい空気に満ちていた。 うす汚い文庫本を手に取り、 パラパラとページをめくる。 やがて一体どこまでが自分を表す 領域なのかが、 分からなくなってしまう。 自分と外界を隔てる "布のようなもの" が靡き、ぼんやりと滲んでいく。 今思えば、昨日彼女にしたことは、 この上なくひどいことだったような 気がする。 儀式的にあつい コーヒーをすすると、 布の内と外は、 より一層滲んでいく。 か弱い声で誰かの名前を呼んだ 深い森の奥底 もうここには誰もいない 外の世界に濡れた身体ごと溶け 出して、溶け出して、 溶け出してゆく さっきまでの自分にそっと別れを 告げて 二人包んでいた熱も ついに跡形さえも全て消え失せて