そう 狂った九夏の怪談 逢魔が時 ひぐらしが告ぐ 飼い馴らした傀儡が選ぶ その目は誰? 「まあ ちゃんちゃらおかしな口承」 災禍の凶兆をご覧よ 夥しい蝶の死骸が 参道に散らばっていた 掻い潜った市街の喧騒 境内から響いた嚮導 灯籠 石畳の階段 踏み入る少女 「もういいかい」「もういいかい」 と問うが 鬼の声は聞こえず 静寂裂く鐘の音さえも届かない 「嗚呼、かしこみ かしこみ…」 手弱女の聲と火の音が籟籟と 「懸けまくも畏き大御神」 今 夜宴が始まる さあ華やいだ怪奇の世に 喰らって奪って掻き攪せ ようこそ ここは泥犂の街 狂い啼け化け物よ さあ散れ災禍 百鬼の群れ 蛙鳴蝉噪を蹴散らして 拝する愚民 眼を伏せて 心臓を抉り出した そう 狂った九夏の怪談 今日も一人 誰かが死んだ 半夏雨がザアザア降って 幽霊塔が消える 空気中を漂うように 泣きじゃくる声が聞こえた 訝るのも許さぬ幻想 突き落とせ 石造りの祭壇で 襦袢の少女が目を覚ます 「かあさま、どうしてそんなにも 泣いているの?」 悄然として立ち尽くす 祭服姿の父と母 その四肢 双眸 髪 すべて 贄せよ ああ 一夜で散る花も 久遠を征く鬼の子も 死生有命の輪の中で等しく囚われる 冥い迷道でひたひたと 重なり合った足音が 九夏の怪談を連れて忍び寄る さあ華やいだ怪奇の世に 喰らって奪って掻き攪せ ようこそ ここは泥犂の街 狂い啼け化け物よ さあ人間 赦しを乞え 糜爛 神罰 盈虧 濫觴 嗚呼、神を呪えどこんな 人生は変わりゃしない ほら また目を背けて