老人ホームの併設 店には井戸もあり 昔は即席ラーメンをその場で作って 生卵入りは追加50円でハスリング 地元の高校生で賑わい 店番の合間に畑仕事 そして、夕飯の支度 冷凍庫の底の方は バニラクリームもかき氷 何年も底辺で氷続けた 夏はジュースの冷蔵庫の温度を下げ 過ぎて コーラが半分凍ってた 冬はコーヒーを暖め過ぎて 缶の中で沸騰 ふと、 思い返す事の出来るうちに書き 留める 気が弱い近所の高校生が 不良の先輩に 万引きを強要され 1カートン(タバコ)片手に膝が崩れ 事情を知った ばあちゃんが万引きを見逃した 最初の日 朝夕シャッターが上がり下りる 陽が上がり落ちる 客が来ては帰る いらっしゃいませとありがとうござ いました こんな田舎で商店なんて 儲からないでも 誰かに必要とされる事を 人生の終着に置いた じいちゃんの赤字のノートは それでも 在庫が足りるか気にしてた それが万引きだったとしても 余計に注文するその目は 戻りたくはないけれどあの夢の様な 日々と残したメモ 何度か見逃した万引きでも 『盗むならタバコじゃなく ポテトチップスにしな、 そっちの方が体にも店的にも 良いから』 とアドバイス でもあいつ等アドバイス 全然聞きやしない ラグビーでもやってるのかというほ ど見事なパス回しで 1カートン(タバコ)万引きして 行く様は 「もはや、見事だ」って笑ってた 夏祭りの日は1年で一番盛り上がり 皆が店の前の縁石に腰を下ろして アイス頬張り 手首に(明日には消える)光る輪っか あの永遠に浮いてて欲しかった 風船も ヘリウムガス切れたらただの日常 朝夕シャッターが上がり下りる 陽が上がり落ちる 客が来ては帰る いらっしゃいませとありがとうござ いました こんな田舎で商店なんて 儲からないでも 誰かに必要とされる事を 人生の終着に置いた じいちゃんの赤字のノートは それでも 在庫が足りるか気にしてた それが万引きだったとしても こんな田舎でも時代は 確実に流れてく その内、老人ホームも無くなってく 閉まるシャッターその隙間の木漏れ 日が 零れ落ちそうな 気丈なじいちゃんの目元を照らす 閉店の日 何度もレジを開けたり閉めたり これまでの忘れ物を探すかの様に その足で近所の高校の朝礼へ 万引きの被害の告白 でも『今日で時効』だと でも、 『その代わりここから(先)は 万引きなんてしない事を 約束してください』と 余った店の在庫のお菓子を配り 最後の仕事納め 忘れ物なんてとっくの 昔からもうなかったのかもしれない 朝夕シャッターが上がり下りる 陽が上がり落ちる 客が来ては帰る いらっしゃいませとありがとうござ いました こんな田舎で商店なんて 儲からないでも 誰かに必要とされる事を 人生の終着に置いた じいちゃんの赤字のノートは それでも 在庫が足りるか気にしてた それが万引きだったとしても その数年後、 あの日の高校生が立派なトラック 運転手になり 1カートンとお菓子を持ってやって 来た 「あんたらが万引きした タバコの煙の分だけ いつか線香をあげに来てくれたら」 なんてじいちゃん渾身の冗談 ばあちゃんは即席ラーメンに生卵 サービスしてご馳走 「夢の様な日々をありがとう」