その男はこう呟いた 「別れが惜しい友はいるか?」 「言葉なき想いというのは ないものと同じ」 「いらない世話かもしれないが、 付き合え」と言いグラス置いた 戸惑いながら不思議なほど 他人と思えなかった 「別れを惜しむ友はいるか?」 繰り返し男は訊ねた 上から物言う男だがとりあえず 大人しく聞いた 「およそわだかまりというのは お前の頃は多いものだ」 「簡単にぶつかる代わりに 解くも簡単なものだ」 「ところが厄介なことには、 少し時間を置いたくらいで」 「煮詰めた鍋底の焦げのよう、 いつしか頑固にこびりつく」 「そうなったら最後、 自然に風化するまで永遠に」 「待ち続けてお前は毎年3月に 胸痛めるのさ」 『でも僕はそんな様な大人には ならないさ』 何も知らないで僕は刹那、 返す刀で吠えていたんだ どうして望んでもないのに 文字通り心を無くして、 時間だけが加速続けて 世界はもはや手狭なのに 1秒と要らぬ仮想距離を 今日も埋める術持てないでいる 「俺のようにある時堪らなく なるのさ」 「このままあっという間に 人生詰むんじゃねえかって」 今になって鮮明に埃の匂いと共に その男の言葉が蘇る 「だからいいか、肝に銘じろよ」 「怒れることは怒っておけ、 謝ることは謝っておけ」 「最後は固く握手をしな」 「必ず再会を誓って、 互いに肩叩き合ってな」 白状するが僕は “そんな大人” に なっちまったのさ その男の言う通りだったのさ 君の彌生が軟らかなるを祈る